東京都は日本の政治・経済・文化の中心であり、昼夜を問わず多くの人が行き交う地域です。
その中でも23区は人口密度が高く、繁華街や住宅街など多様なエリアが混在しています。
この記事では、23区内に住んでいる方や、これから東京への転居・通勤を検討している方に向けて、東京都23区の犯罪発生状況を、警視庁が公表したデータをもとにまとめています。
全体の傾向から、犯罪件数が多い区ランキング、罪種別の特徴、警視庁や自治体による防犯対策までを網羅的に解説していきます。
東京都全体の犯罪件数と傾向
令和6年の東京都における刑法犯の認知件数は94,752件でした。
前年(令和5年)の89,098件から約6.3%増加しており、4年連続で増加傾向が続いています。
1日あたりの発生件数は約259件、1時間に換算するとおよそ11件。
全国的に見ても犯罪発生件数が最も多い地域であり、特に人口密度の高い23区が全体の約8割を占めています。
罪種別でみると、最も多いのは窃盗犯(61,940件)で全体の約65%を占めています。
次いで、粗暴犯(7,936件)、知能犯(8,695件)、風俗犯(2,513件)、凶悪犯(1,025件)と続きます。
このうち、特殊詐欺などの知能犯は増加が目立ち、高齢者を中心に被害が拡大しています。
長期的に見ると、犯罪件数は20年前(平成21年)の約16万件から約40%減少しています。
平成後期から令和初期にかけて、監視カメラの普及や地域防犯活動の定着により、犯罪は大幅に抑制されました。
しかし近年は、令和2年(82,764件)を底に再び上昇傾向に転じており、過去5年間で約15%増加しています。
令和5年以降の犯罪増加は、新たな治安悪化というよりも、コロナ禍で一時的に低下した犯罪件数が社会活動の再開によって平常化した結果といえます。
外出・観光・イベントが回復し、街中の人流が増えたことで、機会犯罪(窃盗・詐欺など)が再び増加傾向にあります。
都心部では夜間の粗暴事件、郊外では住宅侵入や自転車盗など、地域ごとに犯罪の傾向が異なることも東京都の特徴です。
こうした状況を踏まえ、警視庁では防犯アプリ「デジポリス」や防犯カメラ設置支援など、都民と連携した防犯対策を強化しています。
(出典:警視庁 区市町村の町丁別、罪種別及び手口別認知件数 各種資料)
23区内の犯罪件数ランキング(令和6年)
令和6年の東京都全体の刑法犯認知件数は94,752件でした。
そのうち、約8割にあたる75,000件前後が23区内で発生しており、依然として都心部を中心に犯罪が集中しています。
人口密度が高く人の出入りが多い地域ほど、犯罪発生率も高くなる傾向があります。
以下は、警視庁が公表しているデータをもとに集計した、認知件数上位10区の一覧(人口1000人あたり件数)です。
| 順位 | 区名 | 認知件数 | 人口(概数) | 1000人あたり件数 |
| 1位 | 新宿区 | 約5,200件 | 約35万人 | 14.9件 |
| 2位 | 渋谷区 | 約3,800件 | 約24万人 | 15.8件 |
| 3位 | 豊島区 | 約3,500件 | 約30万人 | 11.7件 |
| 4位 | 台東区 | 約3,200件 | 約20万人 | 16.0件 |
| 5位 | 足立区 | 約3,000件 | 約68万人 | 4.4件 |
| 6位 | 世田谷区 | 約2,900件 | 約94万人 | 3.1件 |
| 7位 | 江戸川区 | 約2,700件 | 約70万人 | 3.9件 |
| 8位 | 港区 | 約2,500件 | 約26万人 | 9.6件 |
| 9位 | 板橋区 | 約2,400件 | 約57万人 | 4.2件 |
| 10位 | 中野区 | 約2,300件 | 約35万人 | 6.6件 |
都心部の新宿区・渋谷区・台東区・豊島区は、人口あたりの犯罪発生率が特に高いエリアです。
いずれも繁華街や観光地を抱え、訪問者・通勤者の多い地域であることが影響しています。
一方で、足立区・江戸川区・板橋区などは、人口規模が大きい分、件数自体は多いものの人口比では中位程度にとどまっています。
住宅地が多く、侵入窃盗や自転車盗といった生活圏型の犯罪が中心です。
全体的にみると、夜間・人通りの少ない時間帯の窃盗被害が増加傾向にあり、短時間の外出時でも施錠や防犯カメラの設置が重要といえます。
(出典:警視庁 区市町村の町丁別、罪種別及び手口別認知件数 各種資料)
犯罪種別で見る23区の特徴
東京都23区で発生する犯罪の大部分は「窃盗犯」が占めています。
一方で、近年は特殊詐欺などの「知能犯」が急増しており、都民の日常生活に密接に関わる犯罪構造の変化が見られます。
都内の検挙率は全国平均を下回っており、特に窃盗などの機会犯罪では犯人特定が難しい傾向があります。
このため「犯罪が増えた」という体感は、実際の凶悪犯罪ではなく日常的な軽犯罪の増加に起因しているともいえます。
ここでは、警視庁の最新統計に基づいて、主要な犯罪種別ごとの傾向を整理します。
窃盗犯(61,940件・全体の約65%)
23区において最も多いのは、窃盗犯です。
特に「自転車盗」が28,831件と突出しており、住宅街・駅周辺・商業施設の駐輪場などで多発しています。
非侵入窃盗(置き引き・万引き・車上ねらいなど)は約29,000件で、繁華街や店舗内での発生が中心です。
また、侵入窃盗は2,258件発生しており、住宅を狙った空き巣・忍込み・居空きが全体の約4割を占めています。
短時間の外出や在宅時でも施錠を徹底する、住宅周囲に防犯カメラを設置するなど、物理的な防犯対策が特に効果的です。
粗暴犯(7,936件)
粗暴犯には、暴行・傷害・脅迫・恐喝などの行為が含まれます。
都心部では飲食店周辺や繁華街でのトラブルが多く、特に新宿区・豊島区・渋谷区での発生が目立ちます。
夜間帯の事件が多く、アルコールが関係するケースや、面識のない相手との口論がきっかけになるケースも少なくありません。
警視庁では、繁華街エリアでのパトロール強化や警備員・商店街との連携を進めています。
関連記事:店舗・事務所の防犯カメラ設置ガイド|最適な設置場所や注意点、コストを解説
知能犯(8,695件)
知能犯は、詐欺や横領、文書偽造など金銭を狙った犯罪が中心です。
中でも「特殊詐欺(オレオレ詐欺・還付金詐欺など)」の被害が深刻化しています。
令和6年の特殊詐欺被害額は約153億円(前年比+71億円)と大幅に増加しました。
被害者の約66%が70歳以上であり、高齢者世帯を狙った電話・SMSを使った詐欺が依然多く発生しています。
対策として、NTT東日本と連携した「ナンバー・ディスプレイ」「ナンバー・リクエスト」の無料化など、通信面での防犯支援が進められています。
関連記事:離れて暮らす高齢両親の防犯対策ガイド
風俗犯(2,513件)
性的姿態撮影等処罰法違反(1,564件)や不同意わいせつ(791件)などが中心で、都心のホテル街や繁華街周辺での発生が多い傾向です。
特に近年はSNSなどのオンラインを介したトラブルや、違法撮影を伴う事件が増加しています。
警視庁では街頭防犯カメラの設置や、駅構内・地下街での見回りを強化するなど、性的被害の未然防止策を重点的に進めています。
また、繁華街での深夜帯パトロールや、風俗関連店舗への立入検査も継続的に実施されています。
なお、この「風俗犯」は他の関東地域と比べても東京都23区で特に多い点が特徴です。
新宿・渋谷・池袋・上野・六本木など、夜間人口の多い繁華街を複数抱える都市構造が背景にあり、こうした地域特性と警視庁の検挙体制の強さが、統計上の件数の多さとして表れています。
なお、令和5年7月の刑法改正により、従来の「強制性交等罪」は「不同意性交等罪」へと変更され、同意が困難な状況下での行為も処罰対象となりました。
また、新たに「性的姿態撮影等処罰法(いわゆる撮影罪)」が施行され、盗撮行為の検挙件数も増加しています。
これらの法改正が、性犯罪の認知件数増加を押し上げた要因の一つと考えられます。
凶悪犯(1,025件)
殺人、強盗、放火、強制性交などを含む重大犯罪です。
件数としては横ばいですが、SNSを通じた犯行予告や、金銭トラブルに端を発するケースが増えています。
事件発生時には警視庁が緊急配備を行い、地域全体で迅速な初動対応を取る体制が整っています。
都心部では特に夜間の一人歩きや人気のない場所での注意が求められます。
都心エリアで多発する犯罪の傾向
東京都23区の中でも、新宿区・渋谷区・豊島区・台東区などの都心4区は、人口1000人あたりの犯罪発生率が他区よりも明確に高い水準にあります。
全国的にも突出した外れ値を示しており、警視庁の防犯対策における重点エリアとなっています。
繁華街や観光地を抱えるこれらの地域では、人流の多さと夜間の活動量の多さが犯罪の発生要因として強く影響しています。
都心部では夜間型・繁華街型犯罪、住宅地では生活圏型・詐欺型犯罪が目立ち、東京都23区は地域ごとに犯罪構造が二極化しているのが特徴です。
繁華街型犯罪の集中(新宿・渋谷・豊島・台東)
新宿・渋谷・池袋(豊島区)・上野(台東区)は、窃盗犯・粗暴犯・風俗犯が特に集中している地域です。
夜間帯の飲食店周辺では暴行・傷害などの粗暴事件が多く、駅構内や商業施設では置き引き・スリなどの非侵入窃盗が発生しています。
また、これらの地域では風俗犯の比率が他区より2倍以上高く、性的姿態撮影や不同意わいせつ事案など、繁華街特有のトラブルが多発しています。
こうした傾向は他県には見られず、都市構造そのものが生み出す外れ値的な特徴といえます。
警視庁は、新宿署・渋谷署など主要署に専従チームを設置し、商店街・飲食店組合との連携による夜間パトロール、防犯カメラの重点配置を強化しています。
観光・外国人関与型犯罪(台東・港エリア)
台東区(上野・浅草)や港区(六本木・麻布)では、観光客や訪日外国人の増加に伴い、置き引き・詐欺・性犯罪の発生率が上昇しています。
特に上野・浅草では非侵入窃盗、港区では外国人を含む詐欺・風俗事案の比率が高く、いずれも多言語対応・観光型の防犯対策が必要とされています。
警視庁は、英語・中国語・韓国語での防犯情報提供を行うほか、「東京安全ガイド」などを通じて観光客への注意喚起を行っています。
住宅街型の犯罪傾向(足立・江戸川・板橋・世田谷)
一方で、都心からやや離れた住宅中心区では、侵入窃盗や自転車盗、特殊詐欺が主な犯罪です。
足立区・江戸川区では駐輪場での自転車盗が多く、世田谷区や大田区では高齢者を狙った電話詐欺が多発しています。
これらの地域では、地域住民による防犯パトロールや防犯灯の増設など、地域密着型の対策が進められています。
一方で、世帯数の多い区ほど高齢者詐欺被害が集中するという外れ値も見られ、「犯罪率が低くても被害額は高い」という新たな課題が浮き彫りになっています。
外国人による犯罪の傾向
東京都23区では、訪日外国人の増加に伴い、外国人による刑法犯の検挙件数が緩やかに増加しています。
令和5年の警視庁統計によると、外国人による刑法犯の検挙人員は約1,700人(前年比+約10%)で、全体の約2〜3%を占めました。
主な罪種は窃盗(スリ・万引き・置き引きなど)が中心で、次いで詐欺・文書偽造・不法就労関連が続きます。
発生場所としては、新宿・渋谷・上野・浅草・六本木など、観光地やナイトエリアが多く、繁華街型犯罪や観光客を狙ったスリなど、都心特有のインバウンド型犯罪が目立ちます。
国籍別では、ベトナム・中国・フィリピン・ネパールの順で多く、就労や留学など正規在留資格を持つ人による軽犯罪が大半を占めています。
一方で、犯罪組織による詐欺・転売・偽造関連も一定数存在し、警視庁では外国人向け防犯教育や多言語啓発を強化しています。
なお、外国人犯罪の件数は全体の一部にとどまるものの、都心エリアでは人流や観光客の多さに比例して発生件数が上昇しており、「都心型の外れ値」として統計上の特徴を示しています。
関連記事:来日外国人の犯罪数推移と最新の統計情報
警視庁・自治体による防犯対策
東京都では、犯罪発生件数の増加傾向を受けて、警視庁と各自治体が連携しながら、地域の安全を守るためのさまざまな取り組みを進めています。
令和6年は特に「特殊詐欺」「住宅侵入」「繁華街でのトラブル防止」の3分野が重点対策とされています。
警視庁防犯アプリ「デジポリス」の活用
警視庁が提供する防犯アプリ「デジポリス」は、都民の防犯意識向上を目的に開発された公式アプリです。
事件・事故情報のリアルタイム配信、防犯ブザー機能、痴漢撃退アラームなどを備え、都内の危険情報を地図上で確認することができます。
また、詐欺電話の注意喚起や、防犯ボランティア募集情報もアプリから配信されており、日常的な防犯ツールとして広く利用が進んでいます。
高齢者を守る「特殊詐欺対策」
令和6年の特殊詐欺の被害額は約153億円と大幅に増加しました。
被害者の6割以上が70歳以上の高齢者であり、警視庁では固定電話を通じた詐欺防止に重点を置いています。
- ナンバー・ディスプレイ/ナンバー・リクエストの無料提供(NTT東日本と連携)
- 特殊詐欺対策ダイヤル(0120-722-455)による24時間受付
- 各区役所・警察署での詐欺防止講習やリーフレット配布
このような通信・地域・行政が一体となった対策が進められています。
防犯カメラ設置と地域見守り活動
都内では、商店街・駅前・住宅街を中心に、防犯カメラの設置が年々拡大しています。
特に新宿・渋谷・豊島区などの繁華街では、犯罪発生地点に基づく重点配置計画が進められており、映像解析による検挙率向上にもつながっています。
また、自治体や町会が主体となった「地域防犯カメラ設置助成制度」も複数の区で実施されており、住民や店舗が自主的に設置を進める動きが広がっています。
こうした取り組みは、犯罪抑止だけでなく「地域で見守る安心感の醸成」にも寄与しています。
関連記事:防犯カメラの種類を徹底比較!購入前チェックリストつき
観光・多言語対応の防犯体制
インバウンド回復を背景に、外国人観光客を対象とした防犯啓発も強化されています。
警視庁は「Tokyo Safety Guide」などの多言語パンフレットを配布し、観光地や宿泊施設と連携して、スリ・置き引き・詐欺への注意喚起を行っています。
また、都心の主要警察署(上野・新宿・六本木など)では、英語・中国語・韓国語に対応できる通訳体制を整備し、外国人観光客のトラブル相談にも迅速に対応しています。
こうした一連の施策により、東京都では犯罪の抑止と早期検挙の両立を図っています。
警視庁の方針は「警察だけでなく、都民・自治体・企業が連携して安全をつくる」というものであり、今後もアプリ・通信・カメラ・多言語対応といった多面的な防犯施策が継続的に強化される見込みです。
まとめ
東京都23区は、全国の中でも最も犯罪件数が多い地域です。
一方で、20年前と比較すると件数は大幅に減少しており、防犯カメラの普及や警視庁・自治体の取り組みによって、地域の安全意識は着実に高まっています。
令和6年のデータからは、都心と住宅地で異なる犯罪構造が明確に見て取れます。
新宿・渋谷・豊島・台東の4区では、窃盗・粗暴・風俗犯といった繁華街型犯罪が集中し、一方で世田谷・大田・練馬区などでは、電話・郵便を利用した特殊詐欺など、住宅地型の犯罪が課題となっています。
また、観光や外国人の増加に伴い、訪日客をめぐるスリや詐欺などの国際的な犯罪対応も新たな焦点になっています。
都心部では「人の多さ」に比例して犯罪リスクが高まる一方、地域ごとに防犯カメラやパトロールを整備することで、検挙率の向上が進んでいます。
今後も、アプリ「デジポリス」の活用や地域住民による見守り活動など、行政・企業・市民が連携する防犯モデルが安全な街づくりの鍵となります。
なお、殺人や強盗といった凶悪犯罪の発生率は依然として極めて低く、検挙率も90%を超える水準を維持しています。
統計的に見れば、東京は今なお世界有数の安全な大都市の一つといえます。